「年末調整DX」からはじめる、バックオフィス業務の効率化

毎年繰り返される年末調整の時期は、申告書の回収や細かなチェック作業に追われ、業務をいかに効率化するかは重要な課題となっています。企業のデジタル化や人事DXを進めたいと考えていても、「何から手をつければよいのか分からない」と悩む担当者の方は少なくありません。本記事では、毎年必ず発生する年末調整の電子化をテーマに、作業の負担を減らすコツやその先の行政手続きのデジタル化について分かりやすく解説していきます。

 

複雑化する「年末調整業務」が担当者に与える影響とは

秋が近づくと、多くの企業で年末調整の準備が始まります。申告書の配布や回収、記入漏れや添付書類のチェック、不備があった場合の対応、パソコンへの入力作業など、担当者には毎年大きな負担が発生します。

近年は働き方が多様化しており、パートやアルバイトの増加、途中から入社した社員への対応、副業を行う従業員の確認事項など、年末調整で扱う情報も複雑になっています。さらに、生命保険料の控除や住宅ローン控除、扶養する家族の変更など、従業員ごとに確認すべき内容が異なるため、人事や総務の担当者には高い正確性とスピーディーな対応が求められています。

「毎年のことだから仕方がない」と考えられがちですが、年末調整は忙しい時期の業務負荷を大きく左右する仕事の一つです。特に従業員が増えるほど、書類管理や進捗の確認、不備への対応にかかる手間に追われてしまい、本来、注力すべき人材の育成や会社の組織づくりに十分な時間を割けなくなるケースも少なくありません。

また、紙の書類を中心とした運用では、回収漏れの確認や書き直しをお願いするためのやり取りが発生します。担当者が個別に状況を確認しながら対応するため、作業が特定の担当者だけに頼りがちになり、業務が担当者から引き継ぎづらくなる原因にもつながります。

 

情報の分散と回収後の作業がもたらす膨大な手間

年末調整の準備が大変になる理由は、単に作業の量が多いからだけではありません。
最大の要因は、人事や労務に関する情報が、さまざまな場所にバラバラに分かれていることにあります。

例えば、
 ・ 人事に関する情報は、エクセルなどの表計算ソフト
 ・ 出勤や退勤などの勤怠情報は、別の専用システム
 ・ 各種申請は、紙の書類やメール
 ・ 年末調整の書類も、紙のまま
といったように運用していると、情報の確認や別の場所への書き写し作業が何度も発生してしまいます。


また、年末調整の話題では書類を配って回収することに注目が集まりがちですが、実際に担当者の負担が大きいのは「回収した後の作業」です。記入漏れや、必要な証明書の不足がないかの確認、従業員への差し戻しの連絡、システムへの入力など、一つひとつの作業は短時間でも、従業員の人数が増えるほど膨大な手間となります。こうした課題に対して、パソコンやスマートフォンを使ってWeb上で手続きを完結させる「年末調整の電子化」は大きな効果を発揮します。

電子化された環境では、入力する段階で必須の項目が抜けていないか自動でチェックされるため、記入の不備を未然に防ぐことができます。誰がまだ提出していないかという回収の状況も画面上でリアルタイムに把握できるため、担当者が確認したり督促したりする手間を大幅に減らすことができます。

さらに近年は、マイナポータルと連携できる人事給与システムや、年末調整を効率化するためのクラウドサービスの普及が進んでいます。
生命保険料の控除証明書や、住宅ローン控除に関するデータを電子的に取得し、自動反映できる仕組みも広がっており、従業員が入力する手間や総務担当者が確認する作業の軽減につながっています。

年末調整を電子化することは、不備のチェックや進捗管理の効率化だけでなく、人事情報管理や勤怠管理、各種申請ワークフロー、給与明細配信などのシステムとの連携も可能になります。単なる目の前の業務改善にとどまらず、人事・労務業務全体のデジタル化を進める第一歩として、人事DXを推進する有効なきっかけとなります。

 

年末調整の電子化から広がる行政手続きのデジタル化

近年は年末調整の電子化だけでなく、企業と行政機関をつなぐ各種の電子申請サービスの活用も急速に広がっています。これまで紙の書類で行われていた官公庁への申告や届出も、インターネット上の電子データで手続きを完結できる環境が整いつつあり、企業のバックオフィス業務においてもデジタル化への対応が求められています。

● 主な電子化・電子申請サービスの例
 □ マイナポータルを活用した、各種 控除証明書データの取得
 □ 国税電子申告・納税システム「e-Tax・イータックス」による、国税の電子申告
 □ 地方税ポータルシステム「eLTAX・エルタックス」による、住民税や地方税の電子申告
 □ 政府の電子申請窓口「e-Gov・イーガブ」による、社会保険や雇用保険の電子申請


税務・労務・人事に関わるさまざまな手続きで電子化が進んでおり、こうしたサービスを人事や給与のシステムと連携させることで、従業員の情報や申請内容を何度も書き写す手間を削減できるだけでなく、書類の作成業務も効率化できます。また、手入力によるミスの防止や、申請したあとがどうなっているかの管理もしやすくなり、担当者の負担軽減にもつながります。

人事や給与のシステムを中心に情報をまとめて管理することで、税金や労務の手続きをインターネットで行う範囲へと活用を広げることができ、会社全体のバックオフィスをデジタル化するための基盤となります。将来的な制度改正や行政手続きのさらなるデジタル化にも柔軟に対応するため、まずは身近な年末調整業務の電子化から取り組む企業が増えています。


人事DXという言葉を聞くと、「大がかりなシステムを導入しなければいけないのではないか」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし実際には、身近な困りごとの解決から少しずつスタートするケースがほとんどです。

まずは「年末調整の電子化」を実現し、そのあとで社員情報の管理や勤怠管理、各種申請業務の効率化へと段階的に取り組むことで、無理なく人事DXを進めることができます。年末調整は毎年必ず発生する業務だからこそ、業務改善の効果を実感しやすく、人事DXの第一歩として取り組みやすいテーマといえます。

年末調整の準備が本格化する前のタイミングで、現在の仕事の流れを見直して、人事・労務業務全体のDX推進をご検討されてはいかがでしょうか。