企業の法令に準拠した熱中症対策

熱中症が発生しやすい季節ですが、屋外での活動だけでなく、職場においてもここ数年死亡に至る熱中症事例が続いています。昨年1年間の発生状況では、WBGT(暑さ指数)の把握や熱中症発生時の対策整備が確認できなかったこともあり、厚生労働省からも熱中症予防・対策の徹底が呼びかけられています。厚生労働省が取り組んでいる「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」と、企業が対応している主な対策内容や、具体的な導入事例をご紹介します。
「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」とは
厚生労働省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」は、すべての職場に「職場における熱中症予防基本対策要綱」に基づく基本的な熱中症予防対策を徹底することを目的としたキャンペーンです。毎年5月~9月まで実施され、とくに7月を重点取組期間としています。
チェックリストを活用することで職場環境や作業内容に応じて、適切な熱中症予防対策が実施できているか自己点検することができます。
今年度は、以下の3点に重点を置いて対策を呼び掛けています。
1: 暑さ指数(WBGT)※の把握とその値に応じた熱中症予防対策を適切に実施すること
※ 気温に加え、湿度、風速、輻射(放射)熱を考慮した暑熱環境によるストレスの評価を行う暑さの指数。
2: 熱中症のおそれのある労働者を早期に見つけ、身体冷却や医療機関への搬送等適切な措置ができるための体制整備等を行うこと
3: 糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有する者に対して医師等の意見を踏まえた配慮をおこなうこと
「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」チェックリスト
リアルタイムに状況を確認しながら熱中症予防対策に努めます。
STEP1 暑さ指数の把握と評価
JIS規格に適した暑さ指数計で暑さ指数(WBGT)を随時把握
STEP2 測定した暑さ指数に応じて以下の対策を徹底
チェックリスト
□ 暑さ指数の提言
□ 服装
□ プレクーリング
□ 暑熱順化への対応
□ 日常の健康管理
□ 休憩場所の整備
□ 作業時間の短縮
□ 水分・塩分の摂取
□ 健康診断結果に基づく対応
□ 作業中の労働者の健康状態の確認
□ 異常時の対応
実測した暑さ指数(WBGT)評価し、熱中症リスクを正しくは基準値に照らして把握・評価していきます。
その地域を代表する一般的な暑さ指数(WBGT)を参考にすることは有効ですが、個々の作業場所や作業度との状況は反映されていない為、WBGT指数計による随時把握が基本となります。
● プレクーリングとは: 熱中症対策として、作業や運動などの活動前に、あらかじめ体を冷やしておき、作業中の体温上昇を抑えることで熱中症のリスクを軽減する対策のことです。必要に応じて、作業開始前や休憩時間中にプレクーリングを検討します。
● 暑熱順化とは: 暑熱順化とは体が暑さに慣れて、暑さに強くなることです。暑熱環境で7日以上かけて徐々に暑さに体ならすことで、熱中症のリスクを減らす効果があります。
〈 健康管理に配慮する 〉
健康診断より、熱中症の発症に影響する恐れのある疾病(糖尿病 / 高血圧症 / 心疾患 / 腎不全 / 精神・神経関係の疾患 / 広範囲の皮膚疾患 / 感冒等 / 下痢等)を有する場合、医師などの意見を踏まえ配慮する必要があります。当日の食生活・睡眠時間・飲酒など熱中症に影響を与える要因があれば指導し、作業前に確認する必要があります。
異常時は身体冷却や、医療機関に搬送するなどの措置をとるとともに、症状に応じて救急隊を要請します。
企業別取組み事例からの具体的な対策を紹介
作業環境の管理
- 暑さ指数(WBGT)を把握し、基準値を超える場合は作業の中止、水分・塩分摂取を促す。
- 職長と安全衛生責任者は、作業場所で黒球付きWBGT指数計を使い、1日に4回WBGT値を測定する。
測定のタイミングは、朝礼後 / 午前 休憩後(10:30)/ 午後 作業開始後(13:30)/ 午後 休憩後(15:30)です。 - 炎天下での作業中止、作業中止とするべきWBGT値の基準をあらかじめ定め運用する。
- こまめに休憩を取る。
- 職場に冷却設備(エアコン、扇風機など)を設置する。
休憩場所の整備
- 日陰のある場所に設置。
- 休憩場所にエアコンや業務用扇風機、ミスとシャワーを設置。
- 日陰がない場合はテントに遮光シートやネットを張り、日陰の休憩場所を確保する。
作業時間の短縮
- WBGT値が高い場合は休憩時間を増やす対策を行っている。
暑熱順化
- 暑くなる前に、暑さに体を慣らす工夫(発汗を促すような運動等)を心掛けるよう職長が声掛けをしている。
- 暑熱順化する方法や暑熱順化を失わないための方法などについて、独自に資料や啓発ポスターを作成して周知している。
水分・塩分補給
- 始業前に塩飴を口に含むことにより、塩分も摂取するよう工夫している。
- 狭小現場における給水スペースの確保。
- 作業場所の隣にペットボトル飲料、塩分入りゼリー飲料を設置し、いつでも摂取できるように工夫している。
- 作業員に水分補給をしたかどうかをチェック表に記入させ、管理者が確認している。
健康管理
- 事務所入り口に、サーモグラフィー体温計を設置。
- 毎日、朝の挨拶や朝礼で健康状態を確認している。(朝食の内容、就寝状況など)
- 人間ドックおよび健康診断の結果を確認して要所見の人については現場の仲間が注意して目を配り、少しでも異変がある場合には休ませる/午前中のみで帰宅させるなどの対応を行っている。
- 高血圧と診断されている作業員は、毎朝入場時に血圧測定し、記録している。
- 職場巡視の際に、全ての作業員の顔色を確認し、声掛けを行うことで体調不良者がいないか確認している。
服装の工夫
- 通気性の良い衣服や、ファン付き作業服を支給している。
- ヘルメットに日よけ用の布を採用している。
その他
- 異変がある場合は、躊躇なく救急車を呼ぶこととしている。
- 朝礼・昼礼時に熱中症予防対策の注意喚起をする。
- 新規入所者に対して教育を行っている。
- 体調の異変に気付いたときは、休憩場所に移動させ保冷剤で体を冷却、経口補水液を飲ませる、速やかに工場長他、職長に報告・相談する、という応急措置についての知識を徹底共有して、重症化を防ぐ取り組みを行っている。
- 熱中症予防指導員研修を積極的に受講し、独自に作成したポスター、教育資料を普及。
- 日常会話により作業者との意思疎通を円滑にする雰囲気を作れるよう、日頃から声掛けや作業者からの申告を受けやすい環境整備を心掛けている。
具体的な企業の導入事例
医療機関・東京都内
□ 清掃作業中に熱中症を発症した職員の事例を受け、報告ルートと対応マニュアルを整備。
□ 休憩所に冷房を設置し、WBGT測定を毎日実施。
中小製造業・関東地方
□ 作業場に簡易屋根と送風機を設置。
□ 作業前に「プレクーリング(体温を下げる)」を実施。
□ 水分・塩分補給タイムを1時間ごとに設定。
福祉施設・東北地方
□ 入浴介助や厨房作業に従事する職員に対し、冷却ベストを支給。
□ 熱中症予防管理者を選任し、毎朝の体調チェックを実施。
職場での熱中症予防対策を効果的に進めるためにも、従業員の安全と健康を守るための対策を徹底することが求められます。
早期発見と重症化予防の観点からもチェックリストを踏まえ、熱中症対策に取り組む方法のご相談は、お気軽に福島リコピーにご相談ください。